第22章 羅刹
敵を押し返そうと駆けていく隊士たち。
羅刹隊が警備する場所に連れてこられた久摘葉には、未だ困惑の色が垣間見える。
当たり前だ。ただでさえ血が苦手な中で外に出ざるを得ない不安な状況下。
「さて、ようやく我々の出番です。敵軍に夜の恐怖を刻み込んでやるのです。」
加えて、血に酔った様な山南の姿。もしかしたら自分も彼の餌食になってしまうのではないか、そんな錯覚すら覚える。
しかし、羅刹隊の中にどうして藤堂がいるのか、困惑の中でも久摘葉にとっては疑問でならなかった。
「悪いが山南さん、平助は門の防衛じゃなくてよ、ここの守りに残して欲しいんだが。」
通りがけに原田が山南に頼んだ事は久摘葉にとってありがたいものだった。
「久摘葉、お前は平助から離れるなよ。」
その気遣いに感謝し、自分の持ち場へ戻る原田の背中にほんのり笑いかけた。
その安堵も束の間
「藤堂君がどこに居ようとさして支障は出ませんがね。この状況、何処から敵が湧いて来てもおかしくないですから。」
山南は様子を変える事なく、手近に迫っていた敵兵を斬り倒し、羅刹兵を率いる。
その不敵な笑みはもう羅刹そのものだ。
もう昔の山南の面影はなく、ここにいるのは血に飢えた羅刹。
「俺は山南さんに着いてく。ちょっと心配だし。」
颯太はその後を追う。今の山南は何をするかわからないだろうから不安なのだろう。
目の前で血飛沫が飛ぶその光景を見た途端に不安で重くなる体。
そんな久摘葉を背に庇ってくれる藤堂。
今はその頼もしい彼に頼る他なかった。