第22章 羅刹
年が明けて。
戦の魔の手はもうすぐ近くに迫っていた。
以前とは違い、新選組が属する旧幕府軍は逆賊。
奉行所の隣、高台の龍雲寺に陣を張った薩摩軍。大砲を撃ち込んでは大きな音がこだました。
久摘葉は一人部屋の片隅で小さく縮こまり、耳を塞いで、作り出した暗闇に身を任せていた。
大砲の鈍い爆撃音が地鳴りを伴って響かせる。
自分の部屋にも被害が及ぶのではないか、それだけが心配でならない久摘葉。
しかし対策を講じているはず。
それに従えば、無事である事は出来るのだろうから。
今はそう信じ、一人で耐え凌ぐのだった。
大広間ですぐに対策が取られた。
最新兵器は飛び道具が大半を占める。夜ならば銃の狙いも定まりにくいだろうと判断し、敵陣営に乗り込むと判断が下された。
銃撃戦が続けば不利になるのは旧幕府軍。この機を逃すわけにはいかなかった。
「問題は、動ける隊士が殆どいない事だな。俺の隊からも人員は割けねえよ。」
永倉が言う。
それはどこの隊も同じ。一つを除いて。
土方が指名したのはその一部隊。
「ほぼ無傷の羅刹隊を使う他ねえだろ。」
策も固まったその直後、再び爆撃音と地鳴りがこだまする。
敵に先手を打たれたのだ。
「久摘葉!ここから逃げるぞ!」
「ちょっと待って下さい。一体何が…」
颯太は真っ先に久摘葉の部屋へ。そして困惑する久摘葉の手を無理やり引く。
「囲まれたんだよ。壁が撃ち抜かれてもおかしくない。」
奉行所の周りを囲まれ、部屋で大人しくしていた久摘葉も外へ逃げる他なかった。