第22章 羅刹
戦いは、もういつ始まってもおかしくない。
何度も聞こえる挑発の為の銃声にも慣れきってしまうだなんて、以前の久摘葉からしてみれば予想もしなかっただろう。
しかし新選組への信頼も厚く、安心を常に持っていた。
しかし部屋に籠りきりというのもとても窮屈なもので。
たまに夜、外に風を当たりに出る事も多かった。
「お、久摘葉。また外に出てたんだな。」
そこで夜の見廻りに出掛けようとする藤堂と軽く話しをするのが最近の日課ともなっていた。
久摘葉は、最近の藤堂が夜の任務を任される事が多い事が疑問でならなかった。
それを表に出すことはなかったが。
それもそのはず。藤堂は、自分が羅刹になった事を久摘葉には教えていなかった。
千月への申し訳なさというものが、少なからず存在しているからだろう。
何はともあれ、羅刹になったことで体にも変化が起こった藤堂。久摘葉に教えられないもどかしい気持ちを抱えていた。
「平助君。…うん。最近ね、風に当たりたくなるの。夜は銃声も少なくて静かだし。
もしかしたら戦の前の静けさなのかもしれないけれど、今はこうして穏やかな時を感じていたいんだ。」
これまでの久摘葉を見ればわかる通り、彼女は、目の前の人が傷付く姿を見る事が何より辛いのだ。
それは恐らく、敵であったとしても。
戦なんて耐えられるわけが無いのだ。
多くの血が飛び交う所を久摘葉には見せられない。
本人もそれをわかっているから、たとえ一時の平和であったとしても、安らぎを感じていたいのだ。
「私、過去も自分の存在も忘れて、ずっとここにいる理由もわからなくて。
でもね、平助君と一緒にいると、何かが思い出せるような気がするの。根拠はないけど、何となく。」
久摘葉に自身の記憶が無いことは、もう全員知っている事だ。久摘葉が取り戻そうと奮闘している事も含めて。
鬼だという事も忘れている久摘葉。
自分が人外の存在だと気付いた時、何を思うのだろうか。
互いの思いはどうであれ、こういう機会が出来たことで久しぶりに見た藤堂の笑顔に安堵する久摘葉。
その久摘葉と以前の千月との重なりがまだ何処かで残る藤堂。
深い夜はその何もかも御構いなしに包み込んで覆い隠す。