第21章 鮮血
「近藤さんを撃ったのは君かな。」
沖田にとって今一番重要なのは、近藤を撃ったのか、それだけだった。
「俺は撃ってないよ。でも、そいつらに助言はしたかな。街道に張り込めばいいって。
でも俺もこんな上手くいくとは思ってなかったよ。
新選組の局長ともあろう者が、あんなに油断してたなんて、ね。」
実行したのはあくまで御陵衛士残党だと南雲は言うが、その挑発は沖田の殺気をさらに煽る。
沖田が南雲を殺る理由としては十分に過ぎる。
先ほども肉を抉った刀で南雲に斬りかかる。
しかし南雲は涼しい顔で言う。
「俺はね、新選組局長の首が欲しかったんじゃないよ。
千鶴は親切な人の元で幸せそうに笑ってるのに、同じ血を分けた俺は、男というだけで虐げられた。存在価値のない男だって。
千鶴にもその苦しみを味わってもらわないとね。双子なんだから。痛みも苦しみも同じだけ知ってないと。
近藤の不意打ちもその過程に過ぎない。沖田、千鶴の側にいる人を出来損ないの羅刹にして、苦しめてやるんだ。
出来損ないの羅刹にするには、憎しみを増徴するのがいいんじゃないかと思ってね。」
何度も沖田を嘲笑い、煽る。
南雲もまた風間と同じ純血の鬼。その力は絶大とも言える。
何度も刀をぶつけながら、その中で南雲はまだ言い足りないと話し出す。
「言っとくけど、羅刹になったからって労咳は治らないよ。
嘘はついてないよ。だって人間の時より苦しくはないだろ?」
実際、羅刹になってから調子は良かったのだ。しかしそれは偽りのものだった。
今も体は病に蝕まれている。
一瞬動揺こそしたものの、力を緩めることなく南雲に襲いかかる。
しかし均衡した接戦が続く中で久摘葉と藤堂が近づいてくる足音を察知して、南雲は退散する他なかった。
まだ何か企んでいる様子。特に久摘葉を気にしているようだった。
「沖田さん⁉︎その姿は…!」
羅刹と化し、全身に血を受けたその残酷な姿。
恐怖が再び久摘葉を襲う。
それは陰からも。
建物の陰で久摘葉を狙う残党。それに本人が気付いている様子もない。
「危ない!」
沖田は咄嗟に彼女を庇う。
途轍もなく大きなその威圧感に呆気にとられた浪士は一目散に逃げ出す。
同時に沖田はその場に倒れる。
銃弾を受けたその傷口からは酷く血が流れ出ていた。