第21章 鮮血
油小路の変が勃発したその時、沖田は病状も悪く、時折血の混じった咳をしながら横になっていた。
外では刀同士がぶつかり合う金属音が響く。
屯所にも侵入者が入り込んだ事はそれだけで容易に想像できるものだ。
自分も戦いたい。刀を振るいたい。その思いとは真逆の体。
刀を支えにして立つのがやっとのこの状態で戦場には出られない。
それでも沖田は布団で死を迎える事だけは絶対に避けたかった。
どうして病に選ばれたのが自分なのか、病に屈する自分を責める自分もいた。
悔しさに心が奪われていた時、沖田に助けを求める声がした。
知っている。いや、この姿を目にするのは初めてだったが、新選組の部外者であることは間違いない。
「千鶴を助けてください!」
部屋に転がり込むや否や、第一声はこれだった。
「君は確か、千月ちゃんと都で助けた…」
「はい。しかしあれは偽りの姿。本来の私は男。そして八瀬の姫の共にここを訪れた雪村千鶴の双子の兄。
詳しい事は後で話します。千鶴を助けてください。新選組の暴走した羅刹に襲われているんです。」
必死に懇願する南雲。
雪村は屯所を訪れる度、沖田の看護をしていたのだ。
その付き合いは浅くとも、仲間意識というものが沖田の中で芽生えていた。
南雲の事を本当に信用していい人物なのかはさておき、雪村が危ないというのであれば話は別だ。
助けに行くべきだと思う反面、体は言う事を聞かない。
無理に動けば血を吐く体。
しかしこの時は一秒すら惜しい。
沖田の部屋にも羅刹が侵入したのだ。
南雲は真っ先に大太刀を抜くと羅刹と刀を交える。
力は均衡しているようにも捉えられ、鬼とはいえこの力量なら、助けを求めた事にも同意出来る。
しかし沖田は立つ事すらままならない。