第21章 鮮血
近藤が右肩を負傷して帰宅した。
12月18日、油小路の変から丁度一ヶ月後の出来事だ。
竹田街道・墨染で何者かにより銃で撃たれたのだ。
自身の血で真っ赤に染まった右肩は久摘葉には耐え難い。悍ましく、その姿を瞳に写すだけで思考回路が停止し、何をするにも混乱を招くものだった。
「こ…こ、ん…ど……う、さ ん…。」
喋る事も呼吸をする事にさえも支障が出てしまう。
荒くなる呼吸を抑えようと震える手を口元に当てる。
それでも指の隙間から不規則に漏れる息は更に久摘葉の心を蝕んでいった。
久摘葉に残った記憶の中にも確かに仲間が血を流す姿もある。しかし今の人格はあくまで久摘葉。身内の悲惨な姿を見て耐えられるほど強くはない。
「久摘葉、きっと大丈夫だから。ここから離れるぞ。」
颯太が知る近藤勇の死期はここではなくまだ先の事。
今までの流れもあり、一概には否定出来ず、一番可能性のある事なのだろう。
少なからず颯太はそう信じている様子だ。落ち着いて久摘葉を宥め、外の隊士を警戒しながらその部屋の外へ出した。
しかし足も震えておりゆっくりでしか進む事も出来ない。
久摘葉にかかる精神的苦痛は、誰が想像するより酷いのだろう。
颯太は幼少期の頃からの長い付き合いの中でその感情の変化も予想がしやすいのだろう。
わかっているからこそ下手に声をかける事も出来なかった。
そんなよそよそしい颯太の行動は、周りからすればあからさまだ。
久摘葉も、颯太が自分を避けていることに気付いている。
だからこそ心配して部屋へ送ってくれているだけだとしても、重荷にならない様にと離れたがった。
「ここまでありがとう、十鬼夜君。」
「名前でいいよ。苗字一緒だし、周りからしても紛らわしいだろ。後、ちゃんと部屋まで送るから。」
「うん。でも颯太君も見つかっちゃったら大変だし。私は大丈夫だから。」
強引に颯太から離れて。
互いになんとも言えない表情を隠しながら別れた。
部屋ももう近いというところで颯太とは別の足音。一般の隊士だ。
近藤の一件。先ほどの颯太とのぎこちなさ。悩みで思考が掻き乱され、咄嗟に誰の部屋かもわからないところへ逃げ隠れる。
それは偶然が招いたもう一つの悲劇の始まりだった。
「あれ、久摘葉ちゃん?」