第21章 鮮血
それは以前より真剣であるようにも捉えられる。
その強い目線の先には久摘葉。その瞳を前にして久摘葉は硬直して動けないような錯覚すら覚えた。
「もうすぐ京で戦になるわ。その規模は今までとは違うと思ってもいい。
私達の里に来れば戦には巻き込まれないし安全よ。」
承諾以外の回答を許さない様な気迫。
それは昔、嫌という程経験して来たような慣れという感覚があった。
それが何故かはわからないが、その人と千姫は違うと割り切る。
そして足りない記憶に自分の考えを足してその先を見つめた。
「ご心配して下さりありがとうございます。
でも私はここに居たいのです。
恥ずかしながら私は記憶が混濁していて、一部の記憶が虫喰いの様に欠けています。
でもちゃんと残っているものもあります。
残っている記憶の中にはいつも新選組の皆さんがいるから。」
奉行所の外。
その後深追いする事もなく引き下がる千姫達。
「確かに残念だけど、久摘葉ちゃんがそう思うのなら私はそれを尊重したいし支えたい。」
ただ好意で提案してくれていたという事は単純に久摘葉にとって嬉しいものであり、これからも味方として頼りにしてもいいという示しがついたのではないだろうか。
そしてもう一人、久摘葉に言いたかった事がある者が。
「せ…久摘葉さん、あの、沖田さんの具合はいかがですか?」
それは雪村であった。
久摘葉の中にも残っている。彼女が酷い目に遭わされているのに、自分と思しき影はそこから離れていく。
「ごめんなさい。私、貴女を見捨てて…。」
「いいんです。それは私が謝らなければいけない事ですし。私の事情に巻き込んでしまって…。それで、沖田さんは…」
「えっと、沖田さんは今も療養の為、自室で休んでいらっしゃいます。」
この2人に接点があった事に少し驚いたが、記憶が混濁している久摘葉にとってそれはあまり気に留める様な事ではなかった。
素直に聞かれた事をそのまま伝える。
「じゃあ貴女も早く戻らなきゃいけないんだよね?私達もそろそろ行きましょうか。」
そして3人は瞬き一瞬のうちに空気に溶けたかのように消えていた。