第21章 鮮血
そんな生活にも慣れてきたある日、久摘葉を訪ねる者達がいた。
千姫と雪村、君菊だ。
何やら自分にも言うべきことがあるとの事だが、果たして今の久摘葉が理解出来る話なのだろうか。
「本来ここは部外者は立ち入り禁止なんだが。用件はなんだ。」
近藤が不在の為、代理として土方。そして久摘葉への関連もあるとの事で颯太、藤堂も共に話を聞いた。
話の内容は他でもない変若水の開発停止についてだった。
「単刀直入に伺います。新選組はいつまで羅刹を使い続けるおつもりですか。」
千姫は凛とした声を響かせる。
それは土方に引けを取らない程に芯の通った重い言葉だった。
そしてその言葉は、この中で一番変若水の事を知るであろう人物の説明を促すものでもあった。
「『Earth to Earth,Ashes to Ashes,Dust to Dust.』
これは変若水が作られた外国での葬儀の言葉。意味は『土は土に、灰は灰に、塵は塵に。』
羅刹は本来、そういう風に弔ってもらえなかった死人がなる物だったんだ。
羅刹は自らの寿命を縮めて力を発揮する。そうやって意図的に自身を死に近付けるのが変若水の本来の用途なんだ。
お前らがやってる事も、俺が元の世界で行っていたことも、全部間違った使い方なんだよ。」
苦しげに絞り出される羅刹の本来の姿に土方も、羅刹となった藤堂も、そして久摘葉も、驚きを覚えた。
その雰囲気を作り上げる程の劇薬が変若水。
全ての元凶。新選組が抱えている問題も、颯太や久摘葉がここに来たのも全て。
「ここ数日、白髪の者による辻斬りが増加しています。間違いなく暴走した羅刹によるものでしょう。彼らが突然血に狂う症状は、なんら改善していません。」
追い討ちをかけるように君菊より伝えられる辻斬り事件。
羅刹という存在が、変若水が、どんどん新選組を汚染していくその様はもう誰も逸らすことの出来ない問題へと膨れ上がっていた。
流石の土方も、いくら幕命と言えど、腑に落ちない点だらけのこの問題は、ただ真っ向から拒否する事も出来ずに黙って聞き入れるほかなかった。
「それからもう一つ。」
答えが出る事もなく、千姫は二つ目の要求を口にする。
「千月様…いえ、久摘葉ちゃん。私達の所へ、八瀬の里へ身を寄せない?」