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薄桜鬼 群青桜

第20章 零


千月を守れなかったことへの罪悪感、千月に再び死にも匹敵するほどの苦痛を味合わせてしまうかもしれない恐怖。

それらが藤堂を羅刹とする糧となったのだ。

「ふざけるなよ!あいつが、久摘葉がどんな思いでお前を治したと思ってんだよ!久摘葉はお前に羅刹になって欲しくなかったから治癒を施したのに」

夜真木にとって他人事ではなかった。
自分が今まで大切にしてきた彼女の思いを無下にする様なその行為は、今までの何より許せない。

「悔しいけど、今のオレじゃ千月を守ってやれない。」

それでも、藤堂は既に確固たる決意を秘めていた。

「池田屋でも禁門でも、オレは負傷した。本当なら、きっと油小路で変若水を飲んでた。」

「それをさせない為の治癒だったんだろ!」

「でも!オレはこのままじゃ千月を守れない。オレは守ってやりたい。あいつを。あいつを狙う全ての敵から守ってやりたいんだ。
その為の力が欲しい。オレは強くならなきゃいけないんだ。」

今度は自分が千月を守れる様に。
その意思は夜真木がぶつけるどんな正論にも揺らぐ事はなかった。

「…好きにしろ。」

気の抜けた夜真木の声を耳に入ると、視線とともに微笑を空に届けて、心地いい日の光から離れた。

暗く冷たい影に向けて、藤堂は進み出した。

山南の元へ。


藤堂はこの日の内に変若水を飲んだ。表向きには油小路で死んだ事にして羅刹隊に。



また、間も無くして王政復古の大号令が下されたことで、京の都は大きく揺れ動いた。

江戸幕府を廃絶し、同時に摂政・関白等の廃止と三職の設置による新政府の樹立を宣言した政変だ。

将軍や幕府が地位を失い始めたのだ。もちろん新選組も。

薩摩を筆頭に、今まで幕府と敵対してきた藩が、次々と京に集まる。
この勢いのまま、倒幕を成そうということなのだろう。

徳川慶喜公を初めとした旧幕府側の人々はその勢いに呑まれ、都から逃げる様に去っていく。

新選組はそんな幕府の影響を受け、大阪城におわす慶喜公の楯として、京に集まった薩長軍を警戒せよと命令が下った。

大阪と京を繋ぐ伏見街道の要所、伏見奉行所の警護を命じられた。

油小路の変から一ヶ月後の出来事だった。
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