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薄桜鬼 群青桜

第20章 零


中庭で冷たい風を浴びる藤堂は、悩んでいた。
新選組への再入隊について。

戻りたいのは本音としてあるものの、千月を見て、これから本当に彼女を守れるのか、不安に駆られていた。

そんな中、何度も刀を交えた因縁とも言える相手の姿が視界に入る。

「殺しにかからないんだな。」

「私闘は切腹なんだろ。」

夜真木が藤堂に向けて微笑するというのは、今までの関係を見てきた中では想像も出来ない事ではなかっただろうか。

冷えた腰掛けに座ると、秋風が身に染みる。
全ては現実なんだと、たとえ信じたくなくても、信じなければ何も出来ないと。
枯葉が落ちていくその光景はなんとなく今の自分に似ているような気がした。

「俺とお前ってさ、多分同一人物なんだよ。」

夜真木は唐突に語り出す。

「俺のとこではパラレルワールドって言ったりするんだけどな、平行世界とも言うんだけど。本来交わることのない全く違う世界には自分と同じ容姿、性格の奴がいて、でも全く違う人生を送ってる。同じだけど違う人ってのがいるらしいんだ。」

「それがオレとお前だってのか?」

藤堂の言葉に肯定する夜真木。

「だからお前が嫌いだった。俺と同じ姿で久摘葉を傷つけるお前が憎かった。
…昔の俺を見てるみたいで、凄く変な気持ちだった。」

夜真木にも、今の藤堂と同じ様に久摘葉を傷付けた前科がある。
それを2度と起こさないようにと心に決めていたというのに、目の前では自分と同じ容姿の者が久摘葉を傷付ける。
藤堂にとってそれは意図的ではないものの、それが余計に夜真木を煽ったのだろうか。

「ずっとずっとお前の事ぶった斬ってやりたかったけど、その度に久摘葉が治癒する事考えると出来なかった。でもやっぱり許せなくて、力任せにやりあう事で、均衡を保ってたんだ。」

「じゃあやっぱりお前は本気じゃなかったんだな。」

夜真木の肯定に藤堂は自分の無力さを感じた。
命懸けで救われたことで今ここに居られる。

藤堂は、今後自分が取るべき行動は何なのか、わからないでいた。
たとえ新選組に戻ったとしても、前の様な居場所はもう手に入らない。

新選組に戻ったとしても、果たして今のままで彼女を守れるのか。

長い沈黙の中、その空気を破って口にした決断は小さくて。しかし芯の通った声だった。

「オレ、変若水を飲もうと思う。」
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