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薄桜鬼 群青桜

第20章 零


まだ多少ながら混乱している千月を一度部屋に戻すと、夜真木は幹部達に向け、事の経緯を説明し出した。

「さっき久摘葉に名乗った通り、俺の本当の姓は十鬼夜。鬼は信頼に値する者にのみ姓を明かすっていうならわしがあるんだ。ま、お前らの事を信用してるわけじゃねえけど、緊急事態だからな。

久摘葉…いや、千月も同じ理由で本当の姓を偽っていた。でも桜時の姓も本物っていえば本物に当たるのかな。
久摘葉って名前の方は、色々あって改名したんだ。」

「信頼に値する者にのみ…か。オレらはその対象じゃなかったってことか。」

平助は少し残念そうに呟く。
颯太はその姿をじっと見つめるも、直ぐにまた話を続ける。

「お前らにはこの間、説明したよな。痛みを肩代わりするって。今回治癒した怪我は生死にも関わる重症だった。 久摘葉に降りかかった代償だって半端なもんじゃなかったはずだ。死ななかったのが不思議なぐらいだ。

だからと言って代償が無かったわけじゃねえ。恐らく記憶障害が起こっているんだと思う。
詳しい事は俺にもよくわかんねえけど。」

昔から共にいる夜真木もわからない。名前もわからないとなれば、一番に考えるはそれだろう。

しかし突然の出来事が続く中で隊士達も怪訝な表情をする他ないようだ。

油小路の変が収束後、斎藤が復帰した事に陰口を叩く隊士。ほとぼりが冷めるまで屯所外で隊務を遂行している。
労咳の症状が日に日に悪化していく沖田。療養の為に自室で休んでいる。

新選組の自制も崩れ始めている中、また問題が放り込まれたとなれば、信じたくないというのが本心だろう。

「雰囲気を見る限りでは、全部失っているわけじゃなさそうだ。記憶の欠落がどの程度なのかは本人に確認する他なさそうだけど、おそらく俺らの元いた世界の事は忘れちまってると思って間違いないと思う。」

元の世界を忘れる。それは夜真木の存在がわからないという点だけで事実だという証拠としては十分だ。あれだけ守ることに執着していた相手をこんなにも簡単に忘れてしまったのだから。
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