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薄桜鬼 群青桜

第20章 零


彼女が目覚めてすぐ、非番の隊士達が広間に集められた。

彼女も流石は鬼、と言ったもので、食事を取れば、窶れていた体も直ぐに調子を取り戻すのだった。

「おいお前、何故屯所を抜け出した。あれほど出るなと言ったじゃねえか。」

当然といったばかりに土方さんは噛み付く。

「あの、私に聞いているのでしょうか…?」

「ああそうだ。屯所脱走は切腹だとわかっての行為かって聞いてんだよ。」

「ごめんなさい。」

「謝れっつってんじゃねえんだ。どうしてなのか聞いてんだろ。」

会話も噛み合うことはなく。千月は自覚がないように見える。
芯のある性格も、口調も、態度も、何処か丸まっており、彼らが知る彼女の姿とは全くの別人の様だった。

今これがどの様な目的で行われている会議なのかも理解できていない様な千月。いきなり怒鳴られて、動揺してしまっている。

そんな千月の違和感を断ち切ろうと、夜真木は千月に向け聞く。

「なぁ、お前じ

「なんで…」

夜真木の姿を見るや否や怯える千月。

「どうして平助君が二人いるの?」

その驚愕の発言に驚かないものはいなかった。

ただ一人夜真木だけは苦しそうに顔を歪めて。
けれどなんとか優しい笑みに変えると彼女の方をもう一度見る。

「違うよ。俺は十鬼夜颯太。藤堂とは容姿が似てるだけの別人だよ。お前、自分の名前言えるか?」

優しい当たりの言葉を選びながら、彼女の不安を取り除く夜真木。

そしてその言葉を受け、問いに答える。

「名前…。わからない。」

彼女は自分でも信じられないような顔をしていた。
自身の名を忘れてしまうなんて滅多な事でもない限りあり得ないだろう。

その滅多な事、というのが彼女の中で起こっているということだ。

「お前は十鬼夜久摘葉だ。」

その夜真木の言葉に誰が驚かないだろうか。
新選組の者達が全く聞き覚えのない名前を彼女に教えているのだから。
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