• テキストサイズ

薄桜鬼 群青桜

第20章 零


「なぁ、どうすれば起きてくれるんだよ。」

その問いを答えてくれる者は何処にもいない。

しかしその答えの代わりに、部屋へ入ってくる者がいた。

「よう平助。千月、目ぇ覚めたか?」

「ああ、左之さんか。いや、寝返りすらねえよ。」

原田は襖を閉じると藤堂の横に座る。

「お前は知らねえだろうけどな、千月、本当は油小路に来るなって土方さんに言われてたんだ。」

「え?」

「俺も油小路でずっと張ってたし、どうやって屯所を抜け出してきたのかは知らねえが、あの場の敵を数分とかからずに始末したのは千月ただ一人だ。鬼っつうのは凄まじいもんだな。一瞬俺もビビっちまった。」

原田も千月が目覚めて欲しいと願う一人。そして彼女が目覚めないでいる事に不安を露わにしている藤堂の事もまた心配しているのだろう。

「何にしてもだ、お前がそんなシケた面してたって千月は起きねえよ。それより、昔みたく馬鹿笑いしてた方がよっぽどいいだろ。
折角千月が身を犠牲にしてまで繋ぎ止めた命だ。もっと大事にしとけ。」

原田は藤堂を励ましたかっただけなのだ。
原田から見て藤堂はやんちゃな弟分の様なものなのだろう。そんな藤堂に覇気がない所を見れば、いつもの調子に戻してやりたくなるのだろう。

襖閉める前、原田はその手を止め、藤堂に助言を残す。

「そういえば何度声をかけても治癒を止めない千月に向けて、夜真木が別の名前で呼んだら、直ぐに止まったっけな。」

「その別の名前って?」

「なんだっけな…久摘葉だったか?どうしてかまでは知らねえが。後で聞いてみるか。」

原田はそのまま入ってしまったが、藤堂はその話を聞いて試して見る価値はありそうだと思った様だ。
その名前を呼んでみる。

「久摘葉。」

特に大きな変化はなく、藤堂はやはりとばかりに視線を逸らし苦笑いを浮かべる。

しかし布団が擦れる音がする。

「平助…"君"?」

まさかと思い視線を戻せば、薄っすら瞳を開く千月の姿が確かにあった。

「千月!良かった…。」

しかし安堵のあまり気に留める事が無かったものの、確かに残る違和感。

「千月って、人の名前だよね?」

その違和感は誰が想像するより深刻なものだった。

「誰?」
/ 322ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp