第19章 【外伝】千月
その後鬼達の暮らしは平穏を取り戻しつつあった。
「本日より十鬼夜久摘葉は千月と名を改め、十鬼夜家当主に任命する。」
八瀬姫からも正式に任命され、乱れてしまった統率も徐々に回復していった。
千月という名、本当は使っちゃいけねえ名前なんだけどな。
名前に千の字を入れるのは東洋の純血鬼だけだ。あいつは該当しない。
「この国に純血鬼がいないとなれば他の鬼達にも精神的負荷となるでしょう。表向きだけでも純血鬼が残っている事にすれば、人間侵攻の抑制にもなる。」
八瀬姫の考えが果たしてうまくいくかはわからねえけど、千月にばっかり負担をかけるのは止めて欲しいもんだ。
まあ名前なんて八瀬姫のとんでも計画のオマケみたいなもんだった。
名前程度で人間を足止めできる訳はない。
そこで八瀬姫は姫の持つ夢見の力で鬼に害をもたらす人間を炙り出し、その人間を夜に始末する"聖祭"なるものが実行された。
また、鬼の再興を果たす為、戦力強化の為に変若水の研究を開始。不老不死を作り出す事を最終目的として。
計画の中で最も重要視されたこの2つ。
進展は急務とされた。でもそれを十鬼夜家が同時進行するのにも限界があった。だから十鬼夜家を桜時と夜真木の2つに分けた。
人殺しが聖なる祭りだとかいうフザけた名前の仕事は桜時家に。筆頭は千月。
変若水の研究は夜真木家に。筆頭は俺。
でも変若水の研究の進展はかなり著しいものだった。その為、いつしか俺は殆ど研究に参加する事は無くなり、代わりに聖祭の手伝いを頻繁にする様になった。