第19章 【外伝】千月
久摘葉はたった一人信じられる肉親を失って、怒りで我を忘れてしまった。
右目に東洋鬼の金、左目に西洋鬼の赤。
白銀の艶やかな髪が熱風に揺れ、額には一角の角が。
久摘葉の鬼の力が覚醒した時だった。
そっからの久摘葉は悪鬼と成り果てた。
目につく奴全てを殺して。いや、殺すだけに飽き足らず、体を細かく切り刻んで、もはや原型を留めているものはいなかった。
俺はその場に落ちている武器という武器をかき集め、久摘葉を止める為だけに戦った。でも駄目だった。心臓を突かれちまった。
それでも倒れた俺を見て久摘葉は元の姿に戻ってくれたから、せめてもの救いだと思った。
「ごめんなさい。ごめんなさい颯太君!お母様と約束したのに。颯太君を守ってって、頼まれたのに。」
意識が薄れていく中で久摘葉の懺悔の言葉が身に注がれた。
手を強く握られ、ポタポタと久摘葉の涙が体に染みる。
これが最後の感覚だと思っていたのに。
驚いた。俺は死ななかった。
貫かれたはずの心臓が正常に機能している。
鬼の治癒力であっても心臓までは治らないはずなのに。
久摘葉も驚いた様子だった。
久摘葉が他者を治癒する力を得た時だった。