第19章 【外伝】千月
「颯太君!相手してくれない?」
「おう、いいぜ!木刀でいいよな。」
久摘葉には何も知らされなかった。
十鬼夜家っていう檻の中に閉じ込められて外を知らずに。
「うん!」
「しっかし、うちはどうして刀なんて使うんだろうな。古くせえ戦闘術ばっかり叩き込んで今の兵器に敵うのか?」
「なんか、日本の伝統を忘れないようにって。今の人間社会は外国の優れた技術に屈して、大切にしてきた文化をあっさり手放す醜い種族だって、八瀬姫様が言ってた。人間ってそんなに悪い人達なのかな…」
人間は汚らわしい下等種族だと、完全な当主に仕立て上げるためだけの都合のいい話ばかり教え込まれた。
時には偽りを教えられたりもしたらしい。
「お母さ…千月様!今から練習の成果を披露しますから!見ててくださいね!」
「…えぇ。」
自分の母親を母と呼ぶ事すら禁止されていて、徹底的に跡取りとして育て上げられる久摘葉だったけど、限られた自由を幸せだと信じて、いつも笑顔を絶やさなかった。
「久摘葉、貴女に一つ命を下すわ。」
「え、はい。なんでしょうか千月さ
「母として、命を下す。」
でも久摘葉が、これは全て偽りだと気付いた時、
「千月、何があっても颯太を守りなさい。私の大切な息子を。守りなさい。」
「千月はお母様の名前でしょ?それに守るってどういう…」
もう手遅れだったんだ。