第19章 【外伝】千月
八瀬姫はとにかく鬼の再興を第一に考えていた。
最後の純血鬼となってしまった母さんは、八瀬姫よりいくつもの命を受け、身も心もボロボロになっていた。
そんな身に追い打ちをかける様に持ち込まれた跡取り問題。
もはや日本の鬼だけで純血を繋ぐことは不可能となり、母さんは純血の西洋鬼と婚姻を結ぶことになった。
でも母さんはそれを拒んだ。
たとえ抗えない人からの命であっても、真に愛する者に身を捧げたい。
自分にもあるであろう自由の権利を主張し、母さんは人間の血を半分持つ男鬼と結ばれた。
その間に産まれたのが俺だ。
だけどそんな勝手を八瀬姫が許すはずなかった。
怒り狂った八瀬姫は父さんを殺した。俺がまだ物心つかない頃の事だ。
母さんの事も殺してやりたいぐらい憎かったらしい。でも最後の純血鬼だって事もありそう簡単に逝かせるわけにはいかなかった。
そこで八瀬姫はこう命を下した。
「時期後継者となる女鬼を産み、これを引き継げるよう育て上げよ。もし逆らうのであれば、お前の息子も殺す。」
母さんはその命令を受けた。聞くしかなかったって。
そして久摘葉が産まれた。次の跡取りが。
母さんは久摘葉を育てる為に束の間の自由を与えられた。
多分その時が一番楽しかった。
母さんはいつも久摘葉に厳しかったけど、その理由を俺は知ってる。
「どんなに理不尽な事にも、屈さなければならない権力にも、負けずに立ち向かえるよう強くなってほしい」ってさ。
久摘葉自身もなんかその意図を察してるっぽかったし、事情はともあれいい家族だったと思う。