第18章 懇願
生命は危険を感じた時、時が止まったような錯覚を覚えるものなのだと思う。
長い間感じていなかった恐怖という感情は、ここに来て再び感じさせた。
出来る事はもう何もない。
確信に変わったその言葉を胸に私は目を瞑る。
しかし、痛みが私を襲う事はなかった。
目を開けると目の前にいたのは颯太。
颯太の前は平助が。
「え。」
どうやってあの藩士の中から出て来たのだろう。
平助の体に刻み込まれた無数の刀傷。
無理やり抜け出してきた?
"慶応3年11月18日、油小路の変にて戦死。"
いや、まだ息はある。
急ぎ治癒すれば、助けられる。
治癒を邪魔されては面倒だ。
一掃する。
例えこれで私が終わりだとしても。
もう誰も失いたくない。
「私が刀を三口も差している理由は二つ。一つは外観で実力の差があるとみせしめにする為。」
既に抜刀した刀を左手に持ち替え、右手で二口目を抜刀する。
「もう一つは敵の殲滅。誰一人として逃がさない為に。」
右目に金色、左目に紅の光を宿し、髪は白銀に染まる。額に一角の角。人外の姿を衆目に晒して私は刀を振るった。
鬼本来の姿なら私は戦える。
目の前の敵も、奇襲をかけようと背後から近づく影も全て斬り伏せて。
平助にトドメを刺そうとするケダモノにも、刀を飛ばして串刺しに。
最後の三口目を抜き、力の限り暴れた。
邪気に満ちた鬼。