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薄桜鬼 群青桜

第18章 懇願


暗闇の中、私は走る。走る。走る。

時折見せる咳も、息切れも、腹部の痛みも全て耐えて。

過呼吸気味な息遣いだけがこの闇に響く。

その息遣いに紛れて近付く足音に、もう油小路が近いのだと思った。けど違った。

私が一番聞きたかった足音。
生きている。まだ生きている事がわかって私は思わずその手を引き止める。

「平助!」

「千月⁉︎お前今まで何処に行ってたんだよ!それより伊東さんが斬られたって…!」

まだ油小路通りに向かっている途中だった。
それは私にとって願ってもない事だ。

「行くな!」

その言葉の真意は、おそらく平助自身もわかっているはずだ。

私が死ぬと予言したのだから。

「お前だって御陵衛士の一員だろ!伊東さんが殺られて、仲間も戦っているのに見捨てろって?」

それでも、平助の決断は変わらなくて。

「私は新選組だ。私はただ、平助を見殺しにする事が出来ずに御陵衛士に乗り込んだ。そして伊東の命令で新選組にいた。それだけ。

結局伊東は近藤さん暗殺を目論み、それを知った新選組に粛清された。今油小路に向かえばお前だって粛清の対象なんだ。
ここで新選組に戻ってくれれば、死ななくてもいいんだ!」

思いのままにぶつけたその言葉は

平助には届かなかったのだろうか。

抜刀し、近付くなと言わんばかりに刃を向ける。
怯んだ私を見て、油小路に走り去った。


一刻を争うこの夜は、予測もできない事ばかり。

平助が死んだら、私は何の為にここまでやって来たのだろう。


向かいたくても足が動かないのは、もう大切な人が横たわる姿を見たくないからなのだろうか。

捨てたはずの弱い私。臆病な私。本当の私。

今この感情はまさしく本当の私のもの。
でも、力なく嘆いて終わらせるの?

違う。私は行かなければ。
弱いから。狂うから。戦わなくていい理由をつけるのはもう止めだ。

早く、油小路通りに。
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