第18章 懇願
油小路では既に伊東は夜襲に倒れ、続々と集まる御陵衛士達もまた、新選組に粛清させられていた。
斬り伏せられた者たちは屍となり、誰にも邪魔されることのない深い永遠の眠りについている。
以前の仲間を斬り伏せる。たとえ実力で有利だったとしても、精神面での負傷は大きなものだ。
罪悪感。自己嫌悪。色んなものに潰されそうになる自分を鮮血で覆い隠すのだった。
幹部だから実力も心の強さもある。
そんなのは外観で。
もちろん隊士たちと比べた時、優秀であることは事実。でも生きている以上、自身の感情はつきまとうのだ。
御陵衛士を粗方片付けた実行隊。
疲労の色も垣間見得る。
必死に抗おうとボロボロの体を引きずり原田の足を掴む御陵衛士の一人。
苛立ちを露わにしている原田。槍を構え止めを刺そうとするも、先行して銃弾が視界を横切る。
玉は見事衛士に命中し、原田を掴んでいた手の力も抜けたのだった。
原田の視線はその銃弾が放たれた方角へ自然と向く。
そこに立つは見慣れた因縁の相手。
「よう人間、遊びに来てやったぜ。」
不知火匡、天霧九寿、そして夜真木颯太。
「あれ、千月は居ねえのかよ。」
「はっ。戦に出すなっつったのはお前だろ。」
「んなこと言って、また狂われるのが怖ぇだけじゃねえのか?」
夜真木は少しだけがっかりしたように。
原田はいつもの調子をなんとか取り戻して。
そして挑発をかます不知火。
このやり取りを見る限りでは、先日の屯所襲撃時とあまり変わらないようにも捉えられる。
だがその戦況はすぐに逆転する。
「不意を突くような真似は謝罪しましょう。しかし我らも藩命に従う必要がありますので。」
天霧の言葉を合図に建物の影より現れる藩士。その兵力はこの場にいる新選組の数を圧倒的に上回る。
「よくもまあこんだけ集めたもんだ。それより不知火、お前は長州の関係者じゃなかったか?宗旨替えでもしたなら笑うとこだが。」
「生憎、薩摩長州は仲良しこよしらしくてな。」
何でもないような態度で応戦体制を整える新選組。
しかしこの数、多少なりとも焦りを感じているだろう。
それは誰が見ても容易に想像できるものだ。
「この戦力差、戦うのはお勧めしません。そこで新選組の皆さんには提案があります。桜時千月。彼女の身柄をこちらに預けるならば、退きましょう。」