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薄桜鬼 群青桜

第17章 波


夜も一層更け、実行隊も屯所から出て行った頃。

私は未だ納得はいかないものの、大人しく自室で待機していた。そしてその傍には雪村さんの姿が。

情報提供の為に屯所を訪れたところ、人手が足りないからと私の見張りを任されたのだ。
か弱い少女に手をあげることはないだろうという思惑なのだろうな。全く、厄介なものだ。

「でも、急に訪れた部外者の私にまで任せることがあるだなんて…。皆さんいつもこんなにお忙しいんですか?」

雪村さんが疑問に思うのも当然だ。
普段なら訪問者にこんな事を押し付けるなどあり得ないだろう。

しかし今屯所に残っているのは病に伏せている沖田、山南さん達羅刹隊、そして事情も何も知らない平隊士のみだ。
曲者揃いの中で私の見張りを任せられる人もいなかったのだろう。

「今日は別件で殆どの幹部が外出しているんだ。雪村さんにまで面倒をかけることになって申し訳ない。」

しかし真実を伝えられる事も出来ず、曖昧に濁して謝罪する他、かける言葉も見つからなかった。

「あ、いえ!私も父様を探してもらっているので、これぐらいだったらお手伝いしますよ!」

戦とは程遠い穏やかな笑顔。
余程安全な所で匿われているのだな。


そんな少女を、こんな物騒な夜に屯所に留めていていいのだろうか。

私も、こんなところで呑気に話などしていていいのだろうか。

一人悩むも虚しく、原田さんや永倉さんを、平助が生きられる事をここで一人、信じる他なかった。

しかしどうにも胸騒ぎは酷くなる一方だ。
油小路だけではない。何か、屯所にも危険が迫っているような。

それは騒がしくなった風も教えてくれた。
今宵は目まぐるしく戦況が動くと。

「桜時さん!ダメです!部屋から出すなと土方さんから…!」

制止の声も聞かず、漂う血の匂いに連れられ外の様子を伺うと、無残に斬り殺された羅刹兵達。

その中央、血だまりの中に佇む姿に雪村さんも、私も身を震わせた。

「風間、千景…!」
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