第16章 来訪者
その後の事はよく覚えてない。
ただ、風間に手傷を負わせ、その血が口元に飛んできたから自我を取り戻せたんじゃないかと思う。
狂気から解放されて直後、私はなんとか意識は保てたものの、周りの雰囲気に呆気を取られて、ただ漠然とした現実を受け入れていた。
「流石にあれを見た後では興が冷めてしまった。しかし、お前が狂気に屈したのは人間と長く居過ぎた為に引き起こされたものだろう。本当にお前のしたい事とはなんだ。先を見据えた判断をするのだな。」
風間もあれだけの戦いを繰り広げていたのに、私から逃げる様に去っていく。
私がそれほどに恐ろしい存在に成り果てていたと酷く痛感させられる言葉だ。
「ち、千月、大丈夫
「触るな。」
拒絶。もっと怖がられることが怖くて、心配して手を差し伸べてくれた人が誰なのかもわからないままその手を叩く。
「私は…こんなに弱く…」
_____本当にお前のしたい事とはなんだ。
風間のその言葉、私のしたい事はもう決まっている。
でもはっきりしているなら風間はそんな事聞かないのではないか?
いや、風間が理解していないだけだ。
本当にそう思うのか?
…私が本当にしたい事
答えは出なかった。
運命の時はもう迫ってきているというのに、私は出口の見えない森の中を彷徨っていた。