第16章 来訪者
屯所の門を潜り抜けると、予想通りまだ殺伐とした空間が広がっていた。
息絶える数名の屍を見て、私の不安は募るばかりだった。
倒れているのは皆変若水を飲んで力を得たはずの者たちだったのだから。
羅刹ですら力及ばず灰と化しているのに、それ以下の人が鬼に挑むなど無謀以外の何物でもない。
私は加勢する為に風間を一人で相手している土方さんの元へ走る。
「っ⁉︎お前、どうしてここにいる!」
「ほう。自らその身を差し出しに来るとは。」
2人は刀を交えた膠着状態の中で私の存在に気付き、各々反応を示していた。
しかし土方さんも余裕がないのか、すぐ戦闘に集中する。
「風間、私が自らの意思でお前らの元へ行く事は今後もあり得ない。」
私はそう言い放つ。
人間の事を軽んじ、今も余裕で相手をしている風間にはっきりと意思を伝える。
風間の目的がわかった今、戦う理由はないと思う。
「お前もこの場を見てわからぬか。紛い物を作り出し、偽りの力を手に入れて調子に乗っている。愚かだとは思わんのか。」
しかし言葉というのはとても無力なもので。
風間には何一つ届く事がなかった。
むしろ煽ってしまった。
「まあいい。こやつらを始末したのち、連れ去ればいいのだ。お前ももう殆ど戦えまい。」
一度は土方さんにより刀を折られるも、その折られた刀で土方さんの刀を振り落とす。
すぐに脇差に手をかけるものの、ほんの少しの間丸腰となってしまった隙を風間が見過ごすはずがなかった。
大きく振りかざされる刀を見て私はとっさに土方さんを突き飛ばし、代わりに肩傷を負う。
これは吉でもあり、同時に凶でもあった。
流れる血と錆びた鉄の匂いが私の精神を壊す。
「ぐっ…うっ…」
全身の血が沸騰しているように熱い。
自分でもすぐに分かった。西洋鬼の血が、羅刹の素が、体の奥底にある狂気を引き出そうとしている事に。
「ぅああああああああ!!!」