第16章 来訪者
一定の間合いを保ちながらじりじりと攻め立てるそれぞれの気迫。
しかしそんな静かな闘志だけの諍いはすぐに収束する。
「1番の元凶であるお前が何ほざいてんだよ!」
颯太は平助の言葉をすかさず訂正すると抜刀し、平助の懐に向けて斬りかかる。
平助もまた抜刀し、辛うじてその剣を避ける。
「何千月の味方ぶってんだよ。現に千月を壊してんのはお前以外に誰がいるんだよ!ふざけんな。ふざけんなよ!」
力任せに何度も下ろされるその剣筋は大雑把で隙だらけな感情任せ。
お世辞にも腕の立つ剣客とは言えないが、技術に反してその腕力は強大だ。
でも平助もその隙を見つけては攻めていく。
互いが互いの弱点を付き合いながら接戦は続く。
それ故に、互角の戦いが続くからこそ私には辛いものに感じた。
2人が自分を傷つけ合っているようで、均衡を保っているからこそ、じわりといたぶり続けている様で怖かった。
そして、2人の間合いを裂くように数名の足音が響いてくる。
「チッ。人目に付き過ぎたか。お前のその、ここぞという時の悪運の高さは評価してやるよ。」
その言葉を残し、颯太は暗闇に紛れた。
私の脳裏にははっきりと、2人の戦う姿が残像として残っていた。
「ありがとう平助。…助かった。」
「別にどうってことねえよ。」
ぎこちなくそれだけを言う。
平助との関係にはまだ蟠りが残っている。このお礼だってなんとか絞り出した言葉だった。
平助に背を向けて走る。
息切れなんて気にしている余裕はなかった。
きっとまだ、戦闘は続いているのだから。