第16章 来訪者
「これでお前を安全な場所に連れて行ける。もう危害を加える必要は無くなったんだな。よかった。」
颯太は安心した様子で私を横抱きに歩く。
自分の不甲斐なさに怒りと悔しさを実感しながらも今は屯所に帰ることだけを考えていた。
このままでは平助を生かすために行っていること全てが水の泡と消えてしまうのだから。
「誰か!誰かいないか!」
静かな夜の都にありったけの声を響かせる。
誰でもいい。颯太から離れられる隙を与えてくれさえすれば。
声を聞きつけたのか、こちらへ勢いよく駆けてくる一人の足音。
その足音のする方に目を向けるが、それは予想外の相手で。いや、むしろ一番望んでいなかった姿だ。
颯太を煽ってしまう存在。
「なんだなんだ!人攫いか!」
「千月⁉︎…と夜真木か。」
「今日はとことん運が良いらしいな。ついでに殺していくか。」
元の世界では知りもしなかった颯太の狂気。
血に飢えたようなギラついた瞳で。それは鏡に映るもう一人の自分を串刺しにしている様だった。
颯太は私を一度下ろす。
先ほどの峰打ちから、依然として戦える状態ではない。
大人しくぐったりとした私の姿を確認したのち、壁際にもたれかけた。
「また性懲りもなく千月を奪いに来たのかよ。いい加減こいつの意図を汲み取ってやれよ。」
「お前ら人間には関係ねえよ。千月を殺すのは最終的にはお前らなんだ。」
「オレも新選組のみんなも、こいつを殺す訳ねえだろ!」