第16章 来訪者
話も一通り終え、4人は帰宅となる。
「でも、あんなに頑なに断るなんて。もしかして千月様、想いを寄せる相手でもいるのかしら。」
帰り際、千姫よりそんな事を聞かれた。
正直わからない。でも、質問を受けて最初に思い浮かべたのは平助だった。
平助の事が好きか、と聞かれたらそれは好きだろう。でも恋愛感情という点で言うならわからない。
いつまでも黙り続けている私に千姫は言う。
「そんなに難しく考えなくてもいいんですよ。でも、何より私の事をそこまで警戒してなくてよかった。」
「貴女を警戒する理由はありません。」
「でも、私が鈴鹿御前の末裔だって。八瀬家の鬼だって知ってますよね?夜真木君から大体の話は伺ってますから、私の事も当然嫌っているものだとばかり…。」
「確かに八瀬家には相応の恨みがあります。でもそれは私の元の世界での事。千姫は関係ありません。むしろ助言をいただけるのだから感謝しています。」
颯太も、そんな事まで話してしまっているのか。
ここに住む八瀬家の姫、千姫は、私にとって尊敬に値する方なのかもしれない。
純粋で優しく澄んだ笑顔を絶やさず、背を向け屯所を後にした。
「今夜、また来るから。千月を守りきれねえ事があったら、容赦しねぇから。」
屯所の入り口で立ち止まった颯太が、その背中から凛とした声を響かせた。
この時から既に、辺りは殺気で満たされていた。