第16章 来訪者
一方、広間ではもう一つ話が飛び交っていた。
「では、もう一つの目的であるお話をさせていただきます。此方、雪村さんは人を探していまして。新選組の皆様なら何かご存知かと思い、明かせる範囲で結構ですので聞かせていただければと思います。」
君菊さんは手のひらを雪村さんに向けながらそう切り出した。
先ほどまで俯いていた雪村さんも、ゆっくりその顔を上げ、話し始めた。
「雪村千鶴と申します。私、父を探しているんです。雪村綱道という蘭方医で…
「綱道さんだと⁉︎」
大広間にどよめきが起きる。
当然だ。新選組に変若水を持ち込んだ張本人。現在は行方不明だが、新選組も彼の足取りを追っている。
「やっぱり父をご存知なのですか!」
足取りを掴めなかった父親の手掛かりがようやく手に入れられたということもあり、彼女は催促する様に前のめりになる。
「綱道さんの行方は俺らも追っている。足取りはまだ掴めていないがな。」
そんな彼女とは正反対に、後ろめたい様子で返答する土方さん。
「俺らも綱道さんを見つけて聞きてえ事が山ほどあるんだ。お前が本当に綱道さんの娘なら、ちっとばかし協力して貰えると助かるんだが。」
だが、ここで綱道氏の娘と接触する機会があった事は有意義な事だった。
「たまにでいい。屯所に来て話を聞かせてくれ。綱道さんの手掛かりになりそうな事なら何でもいい。」
終わりの見えない捜索。進展が欲しいと思うのは両者共に同じだ。
断る理由も特に無かったのか、雪村さんもあっさり承諾した。
ただ変若水に関わる全ての内状は幹部隊士のみ明かされている。雪村さんが頻繁に尋ねるところを平隊士に見られ、怪しまれてはいけない。
「屯所に来る時は男装してきてくれ。男の格好なら多少出入りする分には何とも思わんだろう。」