第15章 暗躍
「おい、無事か。」
「腕、斬られてんじゃねぇか!大丈夫か?」
土方さんと平助が順番に心配の声をかける。
「ああ、もう塞がっている。」
ただ私は鬼だ。
傷はもうぴったり塞がって、少し痣が残っている程度だった。
羅刹に…斬られた。所詮は血に狂った化け物だというのに。
その事実がどうしても許せなかった。
しかし傷口を押さえていた左手の赤黒さが確かに証明していた。
自分が血を流していた、と。
今まで無傷で倒せていた相手から手傷を負わされるなど、私はここまで弱くなっていたのか。
「申し訳ありません。私の監督不行き届きです。」
そして同じく騒ぎを聞きつけた山南さんが部屋にやってきた。
山南さんは私が鬼である事を知らない。
考えるよりも先に左手は右腕を押さえる。
「桜時君、大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫です。」
どう反応していいかわからず、思わず視線を泳がせながら答える。
ただ、事情を知らない者から見ればこの流血を見て大丈夫だとは到底思えないだろう。
「ぅぐっ…グハァァァァア!」
そして山南さんもまた血の匂いに当てられた。
床に滴る血を指ですくい取り舐める。
「貴女の血が、血が欲しい。もっと貴女の血を…。」
何者かに操られているかのように力なく近付いてくる。けど目的ははっきりしているのだ。
今彼の瞳に映っているのは私の血のみ。
流石にこの狂い様を見ていると、一戦交えるを得ないとふみ、皆刀を構える。
しかし暫くして山南さんの様子が急変。恐らく鬼の血を含む事で正気を保つ事に成功したのだろう。
気付けばいつもの姿に戻っていた。
が、今晩はどうも厄介な相手ばかり引き寄せてしまうらしい。
「さ、さささ山南さん⁉︎」