第13章 隠密
斎藤「それ以上無礼な振る舞いをすればただでは済まさんぞ。」
浪士「なんだ貴様は。テメェには関係ねぇだろ!すっこんでろ!」
斎藤「生憎、無関係ではない。俺はこの角屋の用心棒だからな。」
用心棒…か。確かにそれが一番誤魔化しが効く、そして客に手を出しても問題はない。という事か。
斎藤「ここに呼ばれた芸妓を、不埒な客から守るのが役目だ。」
そして私の方を振り向くと、なぜか緊張していたはずの空気が流れていったような、そんな感覚があった。
斎藤「⁉︎」
千月「斎藤さん、どうしたんです?」
暗がりの中で表情はよく見えなかったが明らかに敵と話していた時とは違う事が一瞬でわかった。
斎藤「桜時…なのだな。」
千月「はい。私ですが…。」
斎藤「間近で顔を見たのは初めてだ。まさかここまで見違えるとは。あんたがこの様な格好をしているのはあくまでも隊務の為。もしかするとあんた自身は内心その出で立ちを不本意に思っているかもしれん。がしかし、それでもやはり悔いを残さぬ為には今告げておくべきだろう。」
突然、しかもこの状況の中でそんな事を聞かされ、殆ど内容は入って来なかった。
客「おい、こっち向きやがれ!俺を無視して二人の世界作ってんじゃねぇよ!てめぇ馬鹿にしやがって!」
後ろで放っておかれている敵も頭に血が上って怒りを露わにしており、むしろそっちの方が気になって仕方なかった。
千月「斎藤さん、今は話よりも…」
斎藤「今はそれどころではない。」
そして裏拳を一発お見舞いし、何食わぬ顔で話を続けた。