第13章 隠密
浪士「時流を読めぬ幕府の犬め。」
あの後部屋を離れた私を待っていたのは、堂々と島原で会議をする浪士達の座敷だった。
浪士「新選組など恐るるに足らん。いずれ奴らに目にもの見せてやる。」
酒の匂いが充満する部屋の中で酔っ払った浪士達が余裕の表情で新選組を罵っていた。
浪士「何か妙案でもお有りかな。」
話を聞く限りではまだ具体的な襲撃方法は決まっていないようだ。
浪士「邪魔な新選組の連中がいなくなれば時流は大きく尊王攘夷へ傾く。もし成功したあかつきには、この俺は功労者となって高く評価されるだろう。時にお前、」
浪士達に聞き耳を立てるのに集中していたせいか、突然酌をしていた客が私に声をかけたので驚いてしまった。
千月「私でしょうか?」
先ほど風間に曖昧な廓言葉と称された為、下手に使うよりは普通に話した方がいいだろうと思い、言葉を返した。
浪士「もう贔屓の旦那はいるのか?」
千月「いいえ。私はまだまだ半人前ですから、座敷に呼ばれる機会があまりないもので。」
浪士「そうか。なら俺はどうだ。俺の妾になるのなら今のうちだぞ?ぅしひひひ…」
かなり酔っ払っているようだな。
怪しまれるか…など、要らぬ心配だったのだろうか。
でも数名、私の方をチラチラと見ているようだ。
勘付いているものがいるということだろうか。
念の為、一度離れた方が良さそうだな。
千月「お銚子が空になってしまいました。今お代わりをお持ちしますのでお待ち下さい。」