第12章 目的
こんな時にこんな場所で風間と遭遇するとはどれほどの確率が生む事だろうか。
まさか内偵をしている日に角屋に来ているとは。
風間は私の姿を目に捉えるとふっと口角を上げて意外な言葉を吐いた。
風間「ここに酒を用意しろ。」
千月「え…」
風間「何をしている。早くしろ。お前、ここの芸妓だろう。」
確実に私だと勘付いているはずなのに
こいつ…私だと知ってからかっているのか?
かと言ってここで騒ぎを起こすのはまずい。
千月「かしこまりました。ほな、こちらの部屋でお待ちになって下さいな。」
私は拙い廓言葉で風間を部屋へ案内し、座敷の準備を始めた。
千月「お酌の準備が整うまでもう少々お待ち下さい。」
風間「お前、芸妓にしては曖昧な廓言葉を使うのだな。」
やはりこいつ、単にからかっているだけの様だ。
からかわれるのはあまり得意ではない。沖田とのやり取りもあって余計に苦手意識がある。
千月「不快にならはれたなら申し訳あらへん。うち、廓言葉はあまり得意ではあらへんのどす。」
ただ、今の任務の事を考えて下手に正体を明かしては敵対勢力に情報が漏れてしまう可能性がある。
今は耐えるしかない。
風間「島原の芸妓は幼少期より家室として使えているはず。廓言葉もままならんとはとんだ阿呆の様だな。」