第19章 ビニール傘の向こう側が見えない
「だってこの部室に
蒼先輩が来ることは当然でしょ?
こんな荒れた中で蒼先輩が立ってたら
そりゃ怪しくなるじゃないッスか」
「そんな蒼先輩に
罪を被せるのは簡単ッスよね。
しかも西崎先輩は
笑いながら部室を出たときた」
赤也くん、私は君のことを
どうやら見くびってたみたい
君は感情に囚われて
暴れだしたりしてしまうかもと
思っていたんだけど
そんな予想を
見事に裏切ってくれた
こんなに冷静に
物事を見てくれるなんて!
私の手間も省ける
「まぁ状況だけなんで
なんも言えないッスけど」
「そ、そうだよ!
証拠はないよね!」
証拠が無いことに
喜ぶ西崎さんは哀れだ
普通、そこに喜ぶのは
貴女を信じている仲間達でしょ
本人がそんな反応だなんて
私がクロです、と
言っている様なものなのに
「…そう、だね。ごめんなさい。
私、西崎さんを疑っちゃった…」
「…君にそう見えて
そう思えてしまったなら仕方ない。
どうせどっかのファンクラブの
仕業だろ。
さ、部活にしよう。
エリナと如月さんは
片付けが終わってから来てね」
「精市!!
精市はエリナを信じてくれるよね?」
すがりつくように
幸村くんを見つめる西崎さん
幸村くんは
ニコリ、と微笑んだ
それが肯定なのか分からないけど
西崎さんはそう受け取ったらしい
彼等は幸村くんの言葉で
コートへ戻っていった
赤也くんには
後で御褒美かな
部室に残った
私と西崎さん
彼女は下を向いたまま
立ち尽くしている
「西崎さん、ごめんね。
片付けしよう…?」
「なんなの!
なんなのよ!!!」
「!?」
ちょっと、そんな急に
叫び出されたらビックリするじゃん
なんでそんな
般若みたいな顔してんの
黙ってれば美人なのに勿体無い
髪の毛をぐしゃぐしゃと
掻き毟る姿はもう美しさの
欠片もない
あぁもしかして
耐えきれなくなっちゃった?
本性を見せてくれるんだね
ありがとう
しっかりこの目に
焼き付けるよ