第17章 五線譜の上で踊りましょう
なんで、なんでなんで
頭の中を占めるのは
そんな言葉ばかり
なんで、アンタは
なんでアンタが
お姫様は、皆の中心は
エリナなのに!!!
覚えているのは
ぼやぼやとした記憶
私の理想が書いてある
夢のような小説
泣いてる母親
怒ってる父親
私を嘲笑う同級生
なんでなんだろう
私はいつもそう思ってた
なんで私には
この主人公のように
味方してくれるかっこいい男子が
周りにいないの?
なんで私の魅力に
誰も気づかないの?
なんで私をチヤホヤしないの?
痛すぎる思い込みは
やがて私の全てとなり
いける筈のない向こう側を
私はずっと夢見てた
そんなある日
いつものサイトとは違う
異質的な文章
〝夢の向こう側へ
貴女も行ってみませんか?〟
行きたい
行けばきっと私は
お姫様になれるから
理想の自分が手に入るから
迷わずクリックした
そこからどうなったかは
あまり記憶がない
気絶したのか
気づいたらピンク色で囲まれた
空間の中にいて
目の前には誰かがいた
顔もよく見えない
男か女かも分からない
「アンタ…誰?」
「初めまして。
貴女の願いを叶えましょう」
「え?」
「貴女の願いは
〝夢の向こう側〟に行くこと。
それでよろしいですね?」
無機質の機械の様な声が
怖い、と感じる事も無くて
その待ち望んでいた言葉に
私は歓喜していた
「どこに連れてってくれるの!?」
「貴女の望む所に
お連れいたしましょう」
「じゃあ〝テニスの王子様〟の
世界がいいわ!
それで私の容姿も変えなさい!」
「えぇ。分かりました。
どのような姿に?」
「髪と目はピンク色!
髪は軽く巻いてあってー
スタイルも良くって
今より更に美人がいいわ!」
今の私は
全くと言っていいほど
可愛くないのだが
そんな事に気づく筈もない
ピンクだなんて
二次元でしか許されない色
そんな可愛い色は
私にしか似合わないと思った
「かしこまりました。
ではお望みどおり
〝テニスの王子様〟の世界へ。
いってらっしゃいませ」
やっと行ける
私がお姫様になれる
そんな感情が溢れでて
私の耳には届かなかった
「幸せになれるとは
限りませんけどね」