第15章 正直者が涙を零す世の中ですね
いつも蒼先輩は
部室で何かしている
飲み物作るだとか洗濯だとか
整理とか色々
だからコート外でも見ないのは
何時もと同じ事なんだけど
俺は嫌な予感がしてならない
確かめに行けばいいんだよな…
俺はくるりと向きを変え
部室に向かった
「ハァハァハァ…」
急に走ったせいで息が上がる
胸が苦しい 汗が止まらない
だから、早く
無事な蒼先輩を見て
安心したい
額の汗を拭い
俺はドアノブに手をかけた
ガチャガチャ
「…は?」
普通ならすぐ開くドアが
いくらドアノブを回しても
開く気配がない
…鍵かかってる?
なんのために?
「っ〜!!」
やばい、やばいやばい
絶対これはやばい
急がなきゃ蒼先輩が
きっと危ない目に合う
いや、合っている
どうしたら
ドアをぶち開けるか
窓をぶっ壊すか
でもそんなことしたら部長に
怒られるでもそんな今関係ない
急がなきゃ急がなきゃ!!
「くっそ!!」
思いついたのは
急がば回れっていう諺
俺はまたダッシュで
コートに戻った
アイツなら
鍵だって持ってんだろ…!!
「エリナ先輩!」
「あ、赤也。
外周終わったの?」
うるさい笑うな
お前の笑顔なんて見たくないし
お前を名前でも呼びたくない
けど蒼先輩が俺の立場だったら
こうやって言うと思うから
「部室の鍵って持ってます?
ちょっと貸して欲しくてー」
「なにー?
部室で何する気なの?」
「手伝い…的な?」
俺が汗かきながらそう言うと
西崎はニンマリと
気味の悪い笑みを浮かべた
「そういう事なら
仕方ないなぁ。頑張ってね?」
「ういッス!」
差し出された鍵を奪うようにして
俺はまた走った
間に合え
間に合え間に合え!
もう汗なんて
気にならなくなっていて
呼吸すら自分のものでないような
不思議な気分に駆られた
とにかく脚を動かせと
早く部室へ行くんだと
俺の脳みそが
緊急のサイレンで命令してる
頼むから
間に合ってくれ…!!