第10章 白薔薇はペンキ 赤薔薇は血で
切原くんが言うには
西崎さんがマネージャーに
なったばかりの頃
金坂さんと二人で
部室にいる所を見たそうだ
少し言い合いの様だったから
聞き耳をたてていると
「逆ハー主はエリナだけでいいの」
「どうせトリッパーでしょ、アンタ」
「それかモブ?
しゃしゃり出てんじゃないわよ」
「お姫様はエリナに相応しいの!!」
なんて意味の分からない事を
つらつら並べていたんだと
流石に金坂さんも
何のこっちゃ分からないハズ
だって私もよく理解出来てない
お姫様発言や逆ハー発言は
まぁ、分かる
でも
モブ、トリッパーは…
現実にモブも何も無いのに
何で西崎さんは勝手に人の事を
そう言うのだろう
それに金坂さんはモブ感…無い
トリッパーは知らないから
後でググろうかな
「変ですよね!?
ぜってぇ頭おかしいッスよ…」
「西崎さんが…」
「あと、何か
『道具は多い方がいい』とか
言ってんのも聞きました」
「ど、うぐ…!!」
私は口に手を当てて
驚愕の表情という奴を浮かべてみた
そして、そんな…と言いながら
じわりじわりと目を濡らす
そんな私に、切原くんは
わたわたと慌てだした
「す、すんません!
俺泣かせるつもりじゃ…」
「きり、はらくんの
せいじゃないから…」
指で綺麗に涙を拭き取る
肩を落とす私を見て彼は
子犬の様にこちらを見てきた
なんか耳と尻尾見えてきたよ
さて…切原くんに
ここまで見られていたら
彼女はもうお終い
でも欲しい
決定的な証拠が
私を貶す西崎さんを見なければ
こんなに良い子な〝如月蒼〟が
誰か1人が言っていた
証拠も無い発言を簡単に
信じる訳にはいかない
だけど切原くんのこの思いを
踏みにじる訳にもいかない
だから、囁くは
魔法の言葉
「でも、西崎さんが
そんな酷い事言うなんて私…」
「…信じられないッスか?」
こくり、と小さく頷いた
それを見て
切原くんはバンッと立ち上がる
「じゃあ証拠!聞かせます!」
「え…?」
「俺、これ以上」
先輩に辛い思いさせたくねぇから
そう言ってはにかんだ彼に
不覚にもときめいたのは仕方ない