第7章 二頭追うだけじゃ物足りない
切原くんは一切
私の目を見ようとしない
キョロキョロとしてるというか
あちこちを見てるというか
一つ一つ聞いて行こう
じゃないとせっかくのチャンスを
棒に振ることになる
「切原くんは何でここに?」
「、ちょっと水が飲みたくて…」
「そうなんだ」
それ、本当かな
水飲みたいならさっさと
飲めばいいのに
一向に動く気がしない
「あ、そういえば…」
「?なんスか」
「なんで私の名前知ってるの?」
「っ!!!」
かぁっと色帯びていく切原くんの顔
え、まさかの赤面?
なんで?
「そ、れは…」
「ん?」
「た、たまたまッスよ…」
たまたまで知っただけで
そこまで顔を赤くするか普通
どんなたまたまですか
「んな事より先輩、」
「え?」
「頬…腫れてます」
「う、嘘!?」
腫れるぐらい強い力で
叩きやがったのかアイツ!!
もう勘弁してよ
明日みぃちゃんに質問攻めされるな
切原くんは何を思ったのか
ポケットから何か取り出して
水で洗い出した
キュッと蛇口を閉める音がして
また近づいてくる
何かな、と思ったら
ピタリと冷たい何かが頬に触れる
これ…ハンカチ?
「あの、綺麗なんでそれ。
冷やすのに使って下さい」
「え、でも」
「俺は大丈夫なんで!
じゃ、じゃあ」
「ちょ、ま、」
待って、と言う前に
切原くんは走って行ってしまった
無理やり持たされたハンカチを
見つめる
シンプルなハンカチで
切原くんっぽくないといえば
そんな感じ
でもわざわざ紳士だな
紳士と言えば柳生くんだけど
私からしたら切原くんの方が
紳士に見える
ありがたく冷やすのに
使わせて頂こう
あと切原くんには是非
今日あったことを広めて欲しい
そうすることで
金坂さんの居場所は消える
楽しいなぁ想像すると
とりあえず帰ろうかな
家帰るまでに腫れが引くと
いいんだけど
あ、このハンカチどうしよう
今日洗って返せばいいか
ハンカチ無くて困ってたりしたら
申し訳ないな
お礼のお菓子とか…って
そんなのつけたら余計にミーハーと
思われてしまうじゃないか
いいや、綺麗に洗って
明日返そう
それで十分だ