第30章 わざと掛け違えたボタン
エリナは俺を愛してると思ってた
だから俺は彼女を守ろうと、
ただただ必死だったのに
それは、俺だけだったみたいだ
部室近くでエリナの叫び声が聞こえ
慌てて中に入った
如月が遅れて入ってきて
仕事をしていたエリナを
突き飛ばしたらしい
まだ邪魔をするのかと
俺は、如月の右手を、
彼女の邪魔ばかりするその手を
思い切り、踏みつけた。
ぐにょりとした感触が気持ち悪く
何もスッキリはしなかったけど
如月の苦痛に歪む顔は
ただ少しだけ、俺を満たした
そして、俺たちがいない事に
不安を抱いたのか赤也が入ってきて
彼は凄まじい怒りを顕にしていた
彼にとったら如月は
大事な人らしい
〝悪魔〟でもなりそうな勢いだ
そこから先は...正直
あまり覚えていない
ただ、俺...いや俺たちは
エリナに騙されていた事を知った
彼女は俺だけを愛してなんて
くれていなかった
丸井や仁王とも身体の関係を重ね
「愛してる」
そんな言葉を耳元で囁いて
誰も気づかぬままに、みんな
甘ったるい毒で侵されていた
いや、誰もではないか
ただ如月と赤也はちゃんと
気づいていたのだから
そんな彼らに耳を貸さなかったのは
誰でもない俺たちの責任
真実を知った瞬間
エリナに対する愛は消えた
今までの想いがすべて嘘のように
彼女が必死に言い繕おうとし
また毒を注ぎ込もうとするたびに
嫌悪感で吐き気がした
「ねぇ精市、信じて!!
愛してるって言ったじゃない!!」
「その言葉
そっくりそのままお返しするよ。
もう裏切り者には興味ないんでね」
俺を愛してくれると
俺だけしか見ていないと
言ってくれたのは君の方だ
なんて不確かなものを
俺は信じていたんだろう
あぁ彼女は悪だった
俺たちにとって必要無いものだった
そうだ、それを気づかせてくれた
如月...如月さんこそ
俺たちに必要なモノではないか
彼女も被害者だが
俺たちだって被害者なんだ
きっと真面目な彼女のことだから
マネージャーは続けてくれる
そしたらアイツを追い出して
今度こそ俺たちの城を作ろう
完璧な、城を