第30章 わざと掛け違えたボタン
こうなったのはアイツが悪いんだ
如月が余計な真似さえ
しなければ、それで良かった
関わってきたのはアイツだ
エリナを傷つけたのが悪いんだ
白雪姫だって、継母に毒林檎を
食べさせられ傷つけられた
その後、王子様と共に
自分の目の前で
継母に焼かれた鉄の靴を履かし
踊り殺したんだから
お姫様を傷つけた奴は
それ相応の罰が必要なんだよ
「エリナちょっと
向こうのコートに行ってくるねぇ?」
「分かった」
ジャッカル達のコートか
まぁすぐ帰ってくるだろう
「蓮二、少し相手をしてくれ」
「あぁ構わないぞ」
ボールを弾く感覚
風を切る音
どれも俺の心を満たしてくれる
...筈なのに、何だこのモヤモヤ
いつもの俺らしくないじゃないか
なんで、こんなにも
イライラする、気分悪い
何度も、打つ、打つ、打つ
力強く球が蓮二のコートへ飛び込む
またスピードを上げ、返ってくる
今度こそ、もっと強く打ち返せば
イライラもモヤモヤも消える
いや、消えてくれ
そう願いながら、しかし
更に増すばかりだ
「一度水分補給をした方がいい」
「...そうだね。エリナ頂戴」
「はい!どうぞ!!」
垂れる汗が気持ち悪くて
誤魔化すようにドリンクを飲み干す
...甘ったるさが喉を超えても
口に残って気持ち悪い
なんとなく、時計を見れば
もう何十分と経っていた
こんな時間が経っていれば
きっと、もう...
如月は一生消えない傷を
刻まれたんだろう
いや、だけどアイツはエリナを...
でもエリナのキズは
一生とも言えるものなのか...
分からない
何が正しいんだ
何が正義なんだ
...そんなことは分かっていた
俺の正義はエリナだ
今更それをねじ曲げるなんて愚かだ
「精市?」
ほら、心配そうに
俺の顔を覗き込んでくる可愛い顔
こんなに愛しい人が他にいるか
俺はエリナだけを信じればいいんだ
不安そうな顔をする彼女の髪を
さらっと撫でる
それと同時に外から
バタバタと焦りながら走ってくる
音が聞こえてきた
嫌な汗がまた流れたのに
気づかないフリしてそっちを見る
如月を抱えた赤也だった