第23章 あぁ酸素が足りないよ
「…ここに来る前に手を洗ったか
何かじゃないのか。
エリナの手はもう乾いたのだろう」
「なんで蒼先輩の手は乾かず
西崎先輩の手だけ乾くんすか。
大体、手を洗ったんなら
泡はしっかりとれるはずです。
あと、蒼先輩が濡れた手で
突き飛ばしたなら
西崎先輩はどっか濡れてるんじゃ
ないですか?」
その言葉を聞き
柳生くんが慌てて西崎さんを見る
しかし、服はどこも濡れてない
当然だ
突き飛ばしてなどいないから
「きっと、エリナは動揺してたんだ。
そのせいでそんな嘘を
思わずついてしまったんだ」
「西崎先輩に非が無いなら
嘘をつく必要はないッスよ」
赤也くんは私が言いたい事
全て言ってくれる
ここまで以心伝心できるなんて
思っていなかったよ
こんなに頭のいい子だったんだ
感心、感心
「ここまでの証拠があって
まだ認めないんスか?」
「…ただの状況を見て推測しただけ。
赤也の想像だろ?」
「そっちこそ状況を見て
勝手に判断だけじゃねぇか。
涙が証拠?笑わせんな!!!」
「疑わしきは罰せよ。
…って言うじゃろ?
一つの部室で泣いてたエリナと
立ち尽くしてる蒼。
怪しむのも当然ぜよ」
「怪しむだけならまだしも
勝手に決めつけて暴力ふるなんて
少しも正しくねぇ!!!」
「…、っ」
残念ながら幸村くんたちは
赤也くんの正論に言い返せない
だって彼が言ってる事は
自己正当化してないから
向こうの意見もちゃんと理解した上で
自分の思いを述べてる
それだけで自分達の軽率さを
考えもしなかった彼等は
苦しさを増すに決まってる
「部長たちが蒼先輩の事を
どう思ってるか、なんて
西崎先輩はよーく知ってますよね。
そんな時にこんな嘘ついたら
蒼先輩がどうなるかなんて
容易く予想はついた筈。
なのにこんな嘘ついたなら今までの
事も怪しくなりますよねぇ?」
「エリナ…。違うだろ?
嘘なんてついてないだろ?」
赤也くんの表情に唾を飲み
全員が西崎さんを見る
その姿、まるで藁にも縋るようだ
きっと彼等が欲しい言葉は一つ
それを西崎さんは言えるのかなぁ?