第22章 劣等感をパンに塗りたくった
「先生も最近蒼にばかり
冷たいと感じます」
「そ、そんなこと…」
「では彼女を座らせてあげて下さい。
蒼も遅刻した事を
反省しているようですから」
ね?とこっちを見られ
私も慌てて首を縦に振る
先生はまだなにか言いたそうだったが
みぃちゃんにあれだけ言われたら
何も言えず、悔しそうに
私に座ることを命じてきた
「みぃちゃん、ありがとう」
「当然でしょ?このくらい」
そう言って微笑むみぃちゃん
惚れそうなくらい美しいよ、ほんと
その後の授業は順調に進み
あっという間に終わった
「みぃちゃん、ほんとに
ありがとう…」
「だって蒼は遅刻してきた
だけじゃない?
あんなに言われることないのよ」
こんなに人の言葉を
心強いと思ったことはない
なんでみぃちゃんはここまで
輝いているのだろうか
よくあるドラマでお決まりの
〝君は僕の太陽だ〟という台詞
今ここで使いたい
使うべき時あったんだね 驚き
「蒼、でもなんで
遅刻してきたの?」
「え…?」
「西崎達は来てないし…。
一緒にロッカー行ったんでしょ?」
なんて、言えばいいんだろ
何を言ったとしても
彼女は不安がるに決まってる
事実は伝えられない
どうしよう
私の口はこういう時に
役に立たない
「言えない…のね」
「あ、えっと、その」
「無理しないで蒼。
私の前では無理しなくていいの」
「みぃちゃ…」
ふわり
花みたいな甘い匂いに
柔らかく包まれる
ギュッと込められた
優しい力強さがあまりに儚くて
泣いてしまいそうだよ
教室の中でいきなり抱きしめ合う
私達を、皆は不審がるけれど
そんなのどうだっていい
「言いたくないなら言わなくていい。
けど、何度だって言うからね?
私は蒼の味方なの」
「…うん」
「だから、私の前では無理しちゃダメ。
そこまで蒼が気を張る
必要は無いんだからね」
じんわりと体温が高くなっていく
人の暖かさに触れると
こんな不思議な気分になるんだ
涙はいつの間にか引っ込んだ
もう本当の感情の時に
涙は出てくれないらしい
意地悪だなぁ