第3章 人気者
授業が終わる頃には、俺は教室に戻っていた。
俺の顔を見た多紀がこちらに近づいてくる。
「よ。椎名さんと仲直りできたか?」
「…………ああ」
仲直りかどうかはわからないが、椎名とちゃんと話してきたことは伝えておく。
「そっか。ならよかったよ」
多紀も気にしていてくれたのか、少しホッとしたように呟く。
「こんなことが原因で椎名さんに会えなくなるのはごめんだからな」
「…………お前、」
何か言おうとして、やめた。
多紀がこういう性格なのはいつものことだし、今さら何を言ったところで聞きやしないだろう。
チラリと教室の時計を見れば3時少し前。
授業はあと1限残っているが、もちろん受ける気などない。
かといって屋上に行く気にもなれず、ならとる行動は1つだった。
「今日は帰る」
そう告げると多紀は止めることもせず、じゃーなと片手を上げて去っていく。
俺も鞄を手に取ると早々に教室を出た。
だがそこで、俺は予想もしていなかった光景を目にする。
「なぁ、今日こそ一緒にカラオケ行こう」
「大丈夫、俺らだけじゃなくて他にも女子呼ぶつもりだし」
「絶対楽しいから、ね?」
廊下にいたのは3人の男子と、そいつらに囲まれて壁際まで追い詰められている椎名。
椎名はいつもの無表情で相手を見返しているが、
…………ありゃ困ってるな。
それはほんの些細な表情の変化。
おそらくいつも一緒に過ごしている俺や八尋にしかわからないほどの、微妙な差だった。
「俺、椎名さんの歌うとこ見てみたいなー」
「俺も俺も!」
「あ、無理に歌えとは言わないから、嫌なら隣にいてくれるだけでいいし……」
「…………」
椎名は本気で困っているのだろう、戸惑ったような瞳で男子たちを見返している。
……あいつモテるくせに、男のあしらい方とか知らないのか。