第3章 人気者
他に椎名の行きそうな場所は…………
そう考えて、ふと気づく。
───俺は椎名を何も知らないんだ。
あいつと過ごす時間が増えて
あいつが俺達だけに色んな話をしてくれるようになったから
それだけで俺は、なんとなくあいつの何かをわかったつもりでいたんだ。
けど実際は、こんなとき椎名がどこに行くのかすら予想もつかない。
「…………仕方ないな」
俺は教室を出ると、廊下の壁にもたれかかった。
ここで待つしかない。
昼休みが終われば椎名も戻ってくるだろう。
校舎を走り回って探すのもひとつの手だが、それでは効率が悪すぎる。
廊下を歩く生徒がチラチラとこちらを見ていく。
こんなガラの悪い奴が他人の教室の前で腕を組んで立っていたらそりゃそうか。
不本意だが注目されることには慣れている。
目を閉じると生徒の声があちこちから聞こえてくる。
しばらくそうしていると、周りから聞こえるざわめきが大きくなった。
ゆっくり目を開けると、生徒の視線を集めながらこちらに歩いてくる見知った姿。
「…………椎名」
「………………」
椎名は俺のもとにやってくると足を止めた。
正確には俺のもとにやってきたのではなく、俺が教室のドアの前に立っているからなのだが。
「…………どうしたの、トート」
「お前を待ってた」
そう言うと椎名の腕をつかむ。
一瞬椎名は驚いた顔をしたが、大人しくついてきた。
むしろ騒がしかったのは周りのほうだ。
俺が椎名を引っ張った途端、刺さるような生徒の視線がこちらに向く。
何も知らない生徒にどう思われようが関係ないが、居心地はあまりよくない。
とりあえず人気のないところに向かおうと、俺は歩く足を速めた。