第3章 人気者
「よかったね、燈斗くん」
「………………は?」
突然の八尋の言葉に、思わず間抜けな声が出た。
なんで俺に言うんだ。
「実はね、椎名さんに絢瀬さんを会わせようって言い出したの燈斗くんなんだよ?」
八尋は俺を無視してにっこりと椎名に笑いかける。
椎名は驚いたのか目を見開いて、じっとこっちを見つめてきた。
「……おい、俺は絢瀬に話してみろと言っただけで」
「でも椎名さんに友達作ってあげたかったんでしょ?」
「………………」
そういうわけじゃない。
そうは思っても何も言えなかった。
そんな俺を見ていた椎名は、いつもの無表情に戻り口を開く。
「………………帰る」
「へ?」
驚いて椎名を見つめる八尋。
目が点になっている。
「どうしたの?椎名さん」
多紀もそう声をかけるが、椎名は耳を傾けることなく立ち上がった。
「ちょっ、椎名さん!?
どうしたの、まだお昼食べてないし、それに──」
「教室で食べるから、いい」
そう言って椎名は、俺達の顔を見ることなく屋上を出ていった。
あとに残されたのは呆然としている絢瀬と八尋、そして俺と多紀。
全員が何が起こったのかよくわからないという顔をしている。
しばらく無言が続いたが、最初に沈黙を破ったのは八尋だった。
「…………なんか、怒らせるようなことしちゃったかな……」
しょんぼりとした顔で呟く。
八尋は椎名と絢瀬を会わせることに一番乗り気だったため、落胆も大きいのだろう。
だがそれ以上に、椎名を怒らせてしまったという事実が八尋をここまで落ち込ませているのかもしれない。
俺自身も、顔には出ていないが内心驚いていた。
椎名はいつもの無表情だったが、あんな突き放すような言い方をされたのは初めてだ。
チラリと絢瀬を見れば、どうすればいいかわからないという顔をしている。
それもそうだろう。
絢瀬は今日初めて椎名と喋った。
それなりに付き合いのあった俺達ですらなぜ椎名が怒ったのかわからないのだから、絢瀬が困惑するのも無理はない。