第2章 白雪姫
少し不満げな顔を見せたが、彼女は大人しく代金を受け取った。
……こいつ、こんな拗ねたような表情もできるのか。
今まで無表情ばかり見ていたため、新鮮な表情に思わず釘付けになった。
しばらくじっと見つめていると、椎名真琴は俺の視線に気付ききょとんと首をかしげる。
「なに?」
「………………いや」
気まずくなってふいっと顔を反らすと、彼女も深く追及することなく会話が途切れる。
そこでふと気になっていたことを聞いてみた。
「そういえばお前、なんで俺の居場所がわかったんだ」
かなり速足で歩いてきたため、あの人混みの中俺の後をつけて来たとは考えにくい。
「……初めて会ったとき、ここにいたから。
もしかしたらと思って来てみた」
「……ああ、そういえば前にもここで会ったな」
本当ははっきりと覚えていたがあえて知らないふりをすると、椎名真琴はムッと頬を膨らませた。
「………………」
「……怒ってるのか?」
「怒ってない」
「じゃあ拗ねてるのか」
「拗ねてない」
明らかに不機嫌ですという顔で言われても全く説得力がない。
面白くなって思わず笑うと、彼女はますます頬を膨らませた。
「お前、そんな表情もできるんだな」
「…………?」
「ずっと無表情だし、無口だっただろ。
初めて会った時も」
「……初めて会う人には、上手く話せない」
それただの人見知りじゃねぇか。
「無口なのは、元々…………」
「でも俺には普通に喋ってるだろ」
むしろ少し強引なくらいだ。
「あなたは平気」
「なんでだ」
「……変な人だから?」
「余計なお世話だ」
軽く頭を小突いてやると、ぎゅっと目を瞑って首をすくませた。
「お前もたいがい変な奴だと思うがな」
「…………名前」
「ん?」
「椎名真琴。私の名前」
あなたは?と視線で尋ねてくる。
「……荒瀬燈斗だ」
答えると椎名真琴は何度か小声で俺の名前を呟く。
「…………トート」
突然名前で呼ばれ、俺は一瞬心臓が跳ね上がった。
女に…………それも白雪姫なんて呼ばれている有名人に名前を呼び捨てにされたのは初めてだ。