第2章 白雪姫
大勢の視線の中速足で歩く。
一刻も早くこの場から去りたかった。
おそらく不機嫌な顔になっていたのだろう、いつもより眉間に皺がより目付きの悪くなった俺を見て生徒があわてて去っていく。
そうして生徒を散らしながら廊下を突き進み、俺はまた屋上に戻ってきていた。
「…………はぁ」
思わずため息をこぼして、ごろんとコンクリートの上に寝転がる。
あの子が、白雪姫…………
一人きりになって、また先程の出来事がよみがえってくる。
椎名真琴…………
噂通りの可憐な少女だ。
八尋の言っていた通り、彼女が白雪姫なんて呼ばれている理由もなんとなくわかった。
他の生徒とは違う、独特の雰囲気をまとっているのだ。
もう1人の…………黒雪姫とかいう奴もあんな感じなんだろうか。
目を閉じてそんなことを考えていた時、
不意に太陽の光が遮られ、影がさした。
「…………寝てる?」
聞こえた声は目の前からだ。
ゆっくり目を開けると、椎名真琴がこちらをじっと覗き込んでいた。
………………近い。
丁度彼女のことを考えていたこともあり、俺は数秒固まる。
なんでこいつここにいるんだ、何しに来たんだ、というかなんでここがわかった、
色んな疑問が渦巻いてくる。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、椎名真琴はそっと俺の前にメロンパンを掲げた。
「……忘れ物」
「………………」
まさかこれを届けにきたのかこいつ……
忘れ物というか、まだ金払ってねぇし
「…………盗ってきたのか?」
「盗ってない」
恐る恐る尋ねると、彼女は無表情をピクリとも動かさずに答えた。
ということはつまり……
「……お前が払ったのか?」
こくりと椎名真琴が頷く。
「…………だったらそれはお前が食え」
さすがにほとんど会話をしたこともない女子に何かを奢らせるつもりはない。
元々彼女もこれを買おうとしていたのだからこれは彼女が食べるべきだろう。
だが椎名真琴は頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
「それはあなたにあげたものだから」
勝手にあげたことにすんなよ…………
とりあえずこれを受け取らない限りは同じやり取りをずっと繰り返すことになるだろう。
渋々という感じで差し出されたメロンパンを取る。
「…………金、返す」
「別にいい」
「俺がよくねぇんだよ」
そう言って俺は強引に代金を渡した。