第2章 白雪姫
「し…………白雪姫……」
八尋の呟いた言葉に一瞬何のことかと眉を寄せ、すぐに先程の話を思い出す。
「…………って、は?」
八尋の視線の先にいるのは、まだ俺にメロンパンを差し出している少女。
……………………つまりは、こいつが……
最初は八尋の声に反応してこちらを眺めていた生徒達も、八尋の視線の先にいる少女の姿を確認して固まっていた。
「白雪姫…………」
「あれが噂の…………」
そんな囁き声が次第に広がっていき、俺たちの周りに人が集まってくる。
────白雪姫、椎名真琴。
こいつが、そうなのか。
俺は改めて目の前の少女を見つめる。
なるほど、確かに八尋の言っていた通りだ。
まだ幼い顔立ちに似合わぬ儚げな雰囲気。
なんの根拠もないのに、目を離したらすぐに消えてしまうんじゃないかとかそんなバカなことを思ってしまう。
滅多に笑わないというのも本当のようだ。
この場にいる全員の注目を集めながら、しかし彼女──椎名真琴は他の誰かなど目に映っていないかのように俺だけを見つめていた。
次第に周囲の視線は、椎名真琴ではなく俺に注がれ始める。
───彼女と一緒にいる目付きの悪い男は誰なんだと。
注目されるのは慣れていた。
顔を見るだけで避けられたり、陰口を囁かれるのも。
だがこんな状況は初めてだ。
さすがの俺も居心地が悪くなり、くるりと踵を返した。