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ツンデレと腹黒のそれから

第1章 カナダ


「そうか」

「家賃も家具代も、全部会社が払ってくれるって、こんなにいいことはないな。壁も厚いし」


壁が、厚い…?

あ、今こいつの考えていることが分かった気がする。

少し睨みつけ、手に持っていた写真に視線を落とす。


「帰りたいか?」


それを覗き込んだ野木が言った。


「…今は。でも、ここの生活に慣れたら大丈夫だと思う」


俺は写真を段ボールの中に仕舞い、次にポケットから携帯を取りだす。

国際通話とか初めてだから、繋がるかどうか心配になる。


「家に電話かけてもいいか」

「ん?あぁ別にいーよ」


通話ボタンを押し、耳に当てコールを聞く。


『はい、三好です』


数秒して声が聞こえた。

この声は、貴文だ。


「もしもし、俺。貴夜だけど」

『貴夜兄!?』

『えぇ嘘!?  ちょ、貴文兄代わって!
  僕も代わってよー』


朝妃、いづみ、姫果の元気そうな声がする。

多分今、受話器の取り合いが繰り広げられてるな。


『あ、もしもし貴夜兄?俺、貴文』

「あぁ、うん。皆元気そうで何よりだ」


取り合いは、まず貴文が制したらしい。

その光景を想像するだけで、笑みがもれた。

それから全員と話をして電話を切った。

家族の声を聞いて、不安が少し和らいだ気がする。


「お前カナダ来て、初めて笑ったな」


俺の様子を見ていた野木がそう言った。

確かにそうかも知れない。

野木が俺の頬に触れる。

そして軽く口付けた。
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