第1章 カナダ
数十分後。
とあるマンションにて。
「ここが俺たちの部屋か。かなり広いな」
何十階もあるマンションの一室を借りて、今日から生活する。
広いし、住むには文句はないが、こいつと一緒だということが気にくわない。
「お、ちゃんと荷物も運ばれてる。こっち貴夜のな」
「あぁ…」
段ボールが5個程積まれており、その中には確かに俺のモノが入っていた。
一番上に置いてある写真を手に取る。
最初は、父と母の写真。
その次には、俺が旅立つ前の日に撮った家族の写真があった。
荷物の片付けが終わったら、家に電話しよう。
何だか今は、凄く家族の声が聞きたい。
「おーい貴夜」
野木の呼ぶ声に我に返った。
声のした方に向かい、野木が居るであろう部屋を覗き込む。
「何」
「お前どーせ部屋別々がいいって言うだろ?じゃあこの部屋俺使っていいか?」
「え、あぁうん。別に構わない」
「サンキュー。お前この部屋の向かえな」
部屋のドアを指さされ、そちらを向く。
そのドアに手をかけ、開け放った。
一番最初に目に映ったのは、真っ白な洋式の便器……。
「って、トイレじゃねぇか!」
「悪い、冗談だよ。お前は、隣の部屋な」
改めて指をさされ、野木を睨みながらドアを開けた。
普通の部屋だ。
でもどことなく、俺の部屋の雰囲気に似ている気がする。
俺は荷物を運びこみ、部屋の一角に置いた。
「ベッドとかタンスは今日の夕方に届くらしいから、それまで暇だな」
伸びをしながら野木が部屋に入って来る。