第2章 非日常の始まり
炎天下の中、僕は水鏡の国の中央通りを歩いていた。
額ににじみ出てくる汗を手の甲で拭うも、滝のようなそれは止むことを知らない。
手で目を守りながら空を見ると、陽が馬鹿みたいにサンサンと光と熱を放っていた。
ああ太陽、いつ誰がこんなに暑くしろと頼みましたか?
ただえさえこれから始まる【仕事】の事を考えるとイライラするのに、加えてこの暑さ。
つい発狂してしまいそうになる。
しかしそんな事にいちいち発狂してられる場合でもない。
再び前を向いて歩くと、ふと香ばしいようなクドいような匂いが漂ってきた。
反射的にそちらを見ると、パタパタと扇子で仰ぎながら食べ物を焼く商人が目についた。
その匂いにつられたのか、中年女性が一人店を覗いている。
更に視野を広げてみれば、横幅の広い通りを目一杯使って追いかけっこをする子供がいる。
耳を澄ませば、広場で楽団が正午を知らせる無駄に陽気な音楽が聞こえてくる。
僕はかすかに眉をひそめた。
――ああ、いつもと同じ。
いつもと変わらぬ町並み風景、匂い、音。
僕は一体いつまでこのつまらない日常の中に閉じこも らなければいけないのだろう。
18年間この街で生きてきて、いい事があったか。
それでも、僕はここでしか生きていく術がない。