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空よ、泣き止め(銀魂:高杉夢)

第1章 空よ、泣き止め


 しとしと、しとしと。その日、京の空は泣いていた。優しく降り注ぐ雨は水不足だった地に恵みを与え、人々はそれに喜びながらも、それぞれ雨宿りを取る為に近くの建物へと避難する。町外れの廃寺でも、長旅をして来た女が一息入れていた。古びた廃墟となってしまった寺の中は、所々と雨漏りしている。手入れのされなくなった建物の木は腐り、蜘蛛の巣もあちらこちらと張られていた。とてもではないが、中で落ち着いて休めはしないだろう。しかし縁側の上の屋根はまだしっかりと雨を凌げ、風が通るおかげか不快な匂いもしなかった。盲目の女は長年愛用している杖を縁側に立てかけ、荷物を乾いた廊下に置き、己の腰を下ろす。

 ずぶ濡れになる前に、幸運にも寺を見つけた事には安堵していた。激しくはないが、雨が止むのもまだ先の事だろう。長旅でちょうど疲れてもいたし、歩き通しで触れられなかった三味線をいじる良い機会だった。数少ない手荷物の中から三味線を取る。手触りで構えを正し、バチをしっかりと握る。

 ベンッ、ベベンッ

 三味線独特の揺らぐ音が、雨音の中で透き通るように響き渡った。調弦する為に何度か糸巻きを捻り、丁寧な音を作り出す。三味線を弾く準備ができれば、はバチで音楽を奏で始めた。

 強く優しく、そして心地の良い音色。廃寺に鳴り響くそれは、日の本で育った者であれば誰もが知っている曲であった。童子であった頃を彷彿とさせる、とても懐かしい曲。は飽きる事なく、その短い童謡を繰り返し弾き続けた。そうすれば、いつの間にか人の気配がし始める。何処からかの奏でる音を聞きつけたのか、ざくっざくっ、と雨の中から足音が近づいて来た。気にせず弾き続けていれば、その人物は雨傘と荷物を縁側に置きながら、静かにの横に腰を下ろす。
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